冴と海:ふたり


その後、無事救出された冴と海は、それぞれ療養した。
特に全身重傷の海は、通常の治療では回復に物凄く時間がかかってしまうほどで、ガオズロックで特別な治療を受けることにした。
同じく甚振られた冴もガオズロックで療養していたが、海の事がやはり心配で仕方なく、皆に頼み込んで無理しない程度に看病に励んだ。
また、オルグから解放された隆たちは警察に逮捕された。
洗脳を解かれた彼らは、今回の事件のことを覚えていなかった。
証拠を残さないように…、オルグたちの汚い洗脳手法だった。
事情聴取から、AとBは武闘派のチンピラの頭で、隆と同様、オルグに洗脳され強化されていたらしい。
部屋にいた10人以上もの男たちは、チンピラの手下で、同じく洗脳されていた。
彼らは、隆とは何の繋がりも無かったらしい。
ただとても強かったために、冴を甚振る為にツエツエに見出され利用されただけだった。
そして隆は、海を少し懲らしめてやりたいだけだった事、そして冴に対し好意を持っていた事を冴たちは聞いた。
その好意が、海に対しさらに歪んだ憎悪を抱かせ、オルグに洗脳されるまでに到ったのだろう。
冴も、何とも複雑な心境になった。。
そう、カラオケでの人懐っこく暖かかった隆、、
やはりあれが隆の本当の素顔だったのだ。それを…
一般の人を容赦なく巻き込むオルグ、、許せないという正義感がさらに強まる。


ある日、冴は夕方の涼しい心地いい風を受け、自然と笑顔になり歩いていく。
3度もの過酷な陵辱を受けて、普通はこんなに元気でいられるはずはない。
けど、彼女の持ち前の芯の強さと明るさと、暖かい仲間たちと愛しの海のおかげで、元通り元気さを取り戻した。
もう誰の視線も感じず、ホッとして街を歩く。
向かう先は、海のアパートだった。

海は自宅にいた。
瀕死の重傷だったが、ガオズロックで特別な治療を受け、何と数週間で体を回復させたのだ。
雑誌やビデオを見ていたようだ。
それらを見終え、海は満足げな表情で。
海「いやー、生きてるっていいなあ♪」
などと能天気なことをぬかしていた。
と、部屋のチャイムが鳴った。
冴「海ー♪」
ドアの向こうから冴の嬉しげな声が。
ハッとして、急いで部屋を片付ける海。
海「いっけねぇ!(そういや、今日は冴が来るんだった。やばい!)」
大方片付いてはいたのだが、一つ、重要なものを隠し忘れた。
エロ本とエロビデオだった。
呆れた事に何と、さっきまでそれを見て愉しんでいたのだ。
冴に見られでもしたら、、純情で真面目な冴の事だ。
ショックを受けて、悲鳴を上げて嫌悪いっぱいに部屋から逃げてくだろうな。
海(いや、さすがにいくらなんでもそこまでウブじゃ、、)
ガオレンジャーの男4人に可愛いレベルのセクハラでもいちいちムキになる冴を思い出す。
最年少で紅一点である冴は、いつも男メンバーのいじられの対象にされているのだ。
そして今までのデートでのウブな姿、、
海「(ウブ、、なんだよなあ、あいつは…ヤベえぞ隠さなきゃ!)ち、ちょっと待ってろー!」
冴「うん、分かったー。」
何とか冴を待たせ、エロ物を仕舞い込んだ。
海「(よし、これでもういかがわしいものは、出てないな。)悪い悪い。」
部屋の鍵を開け、冴を招き入れた。
冴「お邪魔しまーす。。」
恐る恐ると入り、キョロキョロと部屋の中を見渡す冴。
大人しめの女の子らしいブラウスと軽やかな膝丈スカート、髪飾りの小さいリボンの可愛らしい姿だった。
冴は海の家に来るのは初めてだった。
男の人の部屋に入ったことはあまり無いのだろう、冴は物珍しげにキョロキョロと部屋を見渡した。
冴「結構片付いてるじゃない。へえ~、こういう部屋なんだあ。」
海は、(エロ物がばれませんように)と内心祈りながら、冴をちゃぶ台テーブルに招いた。
座布団にチョコンと座った冴。
海は温かいお茶を出し、テーブルに着いた。
お茶を受け取った冴は「ありがとう!」と言い、熱いお茶をフウフウと息で冷まし、飲み込む。
冴「アチッ」
猫舌なのだろうか、お茶を熱そうに飲む。
その仕草だけでも、本当に可愛いと感じてしまう。
そして、美味しそうにお茶を飲む姿を見て、海は微笑ましい思いになった。
お茶やコーヒーなどの熱い飲み物を飲む瞬間、人は無防備になり、素顔になるという話を海は思い出した。
その話を、海は今までの経験で信じている。
そして今回、冴の素顔は、何とも素朴で愛らしいものだった。

それから、二人で料理を作り、食べる。
海は冴に教わりながら、ぎこちなく作っていく。
海は、(本当に幸せだあ)と微笑ましく過ごした。
冴も、(将来結婚したら、こんな感じなのかなあ)と、またも妄想に走ってしまう。
もうすぐ冴の17歳の誕生日。
海は、何かお祝いしようと、心の中で考える。
海(ぬいぐるみは、、この前あげたしなあ。衣服は、、男にもらったら気持ち悪いか…。無難に時計とかの日用品かなぁ。。)
腕を組み座る、何か考えているような難しい顔をしている海に、冴はいたずら心からそーっと後ろに回りこみ、彼の背中からガバッと抱きついた。
海「うわっ! な、何だよ!?」
冴「えへへ♪ ビックリしたでしょ?」
そのまま甘えたい気持ちになり、冴は海の肩に顔を埋める。
甘えて抱きつく冴の、幸せいっぱいの微笑みを眺める海。
卑しい悪意など微塵も無い、純真で天真爛漫な笑顔。
こんな子供のどこに、あんな地獄な状況でも尚頑張る芯の強さがあるのだろう、と不思議なものだ。
そんな冴を可愛くて愛しくてしょうがない海だった。

夕食を食べ終え、食器を洗い終わった時、冴は海にあの事件のお侘びをした。
海は「いいよ、気にするなよ」と言ったが、冴にとっては相当ショックだったらしく、切なげな顔になる。
海は冴の小さい体を抱き寄せ、慰める。
冴は涙を流して「ありがとう」と落ち着く。
そして海が冴から体を離す瞬間、間近で冴と顔が合う。
涙に濡れた、頬を染める冴の切なげで愛くるしい顔、、
海は思わずドキドキと意識し、ふと顔を下げ唇を近づけた。
冴は一瞬戸惑うが、今度は黙って受け入れることにした。
海の方に顔を上げて目を閉じ、海の唇を待つ。
チュ、と二人の唇が触れ、口付けをした。
少しの沈黙、、唇が離れ、お互いを見つめ合う。
そしてだんだん、二人は恥ずかしげな顔に染まる。
恥ずかしさのあまり顔を俯かせてしまう冴を見て、
海「ごめん、、」
冴「ううん、、あたし、嬉しいっ。」
と海を受け入れ、嬉しげに微笑み、海に嬉しさいっぱいに抱きついた。
海も、小さい冴の体を愛しげに抱きしめる。
若いふたりは両想いを確認した。
…その後、ひょんな事からエロ本とエロビデオが冴に見つかってしまった。
少しの沈黙の後、冴は見る見る顔を真っ赤に染めてキッと海を睨み上げる。
その目にギクゥッとビビる海。
「最低っ、海のスケベ!」と嫌悪感丸出しで叱られ、逃げられてしまうというオチ…。


次の日、ガオズロックにて。
黄「…馬鹿だねえ、、実に馬鹿だね。」
しみじみと海に言うイエロー、他の仲間も同じ思いで溜息をつく。
最近妙に仲の良かった冴と海を見てて、二人が付き合っている事を看破していたのだ。
…二人は隠しているつもりだったが。
それが、今日になって二人は口も聞かない、、いや明らかに冴の方が避けているのだ。
冴は海と会っても、フンと拗ねて顔を合わしてもくれないのだ。
それがおかしくて、もしやと思い、冴の居ない所で海に問い詰めた。
やっぱりばれていた事を薄々気付いていた海はあっさり観念し、白状する。
それを聞いての、イエローの切実な意見だった。
テ「もうっ、何でエロ物なんて持ってたのよ!?」
黒「そうだよっ、俺に言ってくれりゃあ、いつでも喜んで引き取ったのに♪」
テ「なんだって!?」
黒「あ、いえっ、何でも…」
厳しい目つきで睨みつけるテトムに、力士上がりのブラックもたじたじだ。
レッドがすかさずフォローに入る。
赤「まあまあ、、持ってたのは別に不思議じゃないし、気にする所じゃないよ。けど、何で上手く隠さなかったんだ? ホワイトみたいな純情な女の子がそんな物を見たら拒絶反応を起こすのは、ブルーが一番分かっていただろ。」
海は恐る恐るあの時の事を、、冴が来る事を忘れていて、来る前までそれらを見て愉しんでいて、慌ててずさんな隠し方をした事を白状する。
テ「このアホッ! …はあっ、、ダメだこりゃ。」
強烈な一言の後、溜息をつくテトム。
黒「いやっ、俺は分かるぜ! その年代にはああいうのは実に魅力的で、現に俺も…」
テ「あんたはもう黙ってなさい!」
共感し力説するブラックに鋭く突っ込むテトム。
黄「そんな時にまでエロ物を見ようとするか…、間抜けというか単純というか、ある意味では実に幸せな人だ。」
毒舌で、だがしみじみと感想を述べるイエロー。
みんなの鋭い指摘に、海はどんどん小さくなっていく。
そんな状況にレッドは、
赤「まあ、これで事情は分かったし、もう過ぎた事より、これからどうするか考えようぜ。説得すれば、あいつだって分からず屋じゃ…」
シーンとなる皆、、今までの事を考える。
ひたすら駄々をこねて拗ねる冴、、分からず屋だよなあ、と一同。
テ「それにしてもホワイトもホワイトよねえ。男がそういう事に興味持ってるのは、当たり前なのに。」
黒「だ、、だよなあっ。むしろエロ物持ってるというのは、健全だよ! なっ?」
再びシーンとなる皆、、ブラックの自分を正当化しようとする見苦しい姿に、テトムの白い目…。
黒「(うっ! 冷たい視線が俺を突き刺す…!)な、、ナハハ、ハハ…」
テ「ま、その通りなんだけど。ホワイトももう少しその辺柔軟になった方がいいわね。」
黄「だな。とにかく粘り強く説得するしかないんじゃねえか?」
赤「ああ、そうするのが一番だと思う。」
テ「そうね…、ブルー!」
海「はいっ!」
この状況での、強く自分を呼ぶテトムの声に驚いてしまう。
テ「とにかく私たちは、ホワイトにその辺の事を何とか諭すから、あんたはひたすら誠実に謝りなさいよっ!」
海「…ああ、分かった!」
顔を引き締め応答する海。
テ「それとっ、もう二度と浅はかな行動は取らないこと! こうなったのは、あんたの馬鹿が原因なんだからね!」
海「は、、はい。」
鋭く指摘され、再びしょげてしまう。
(そこまで言うか…!? それを言っちゃあ、お終いだよ。。)と思う、男性陣だった。
まあ、テトムの指摘は正解だが。

一人で座って拗ねている冴。
ついさっき海に一度誠実に謝られたが、素直になれず突き放してしまった。
冴(海のバカ…、それにしても、あたしもやりすぎなのかな。さっき素直に一生懸命謝ってくれてたし…。)
と、皆がやってきて、この件について話しかけられ、付き合っている事も指摘された。
冴「!!? な、なっ、、あ、え、、な、何の、事?」
冴の方はひっそりと付き合っている事を本当に皆に気付かれていないと思っていたらしく、ビックリして戸惑っていた。
さらにこの期に及んでシラを切ろうとしている。
皆にばれている事に、海は薄々感づいていたようなのに冴はこの鈍さ、、
(こいつも馬鹿だな…)と思う一同だった。
まず認めさせるところからか、、と面倒くさく思いながら、一同は問い詰めて、やっと冴はまず認めた。
すっかり大人しくなった冴は、皆に恐る恐る聞く。
冴「…な、、何で分かったの?」
黄「大人をなめるなよ、ガキ共。」
黒「そうそう、あれは分かるって!」
テ「特にホワイトはどう見ても、ブルーの事が好き好き!、て雰囲気丸出しだったもんねえ♪」
冴「も、もうっ、、そんなんじゃないってばぁ! いじわる…」
戸惑い恥ずかし顔でいる冴の頭を撫でてからかうテトムに、冴はもっと恥ずかしくなりムクれる。
本当に感情の変化が大きく且つ素直で、反応がいちいち面白く可愛らしいのが、皆が冴をいじりたくなる所以だ。
それは、今まで冴のことをいじりからかってきた友人たちも、同じなのであろう。
幼い頃彼女をいじめた人たちは別として…。
皆が冴をからかいいじり、それに冴がムキになる、、いつも通りの光景。
何やら本題からズレてきた、、レッドが本題を切り出す。
赤「それより、もうブルーの事を許してやったら? ああいう物を持ってる奴は、別に珍しくないんだぞ。お前だって本当は分かってるはずだろ? 
けど、冴は拗ねた顔に戻り、ボソリと呟く。
冴「だって、、あんな時に、あんな物持ってて、、ブルーが悪いんだもん。そう簡単には許してあげないんだから…」
テ「…そうね、二人だけの大事なデートだったんだもんね。けどね、勿論あの馬鹿も悪いけど、そんな事でいちいち拗ねて、ちゃんと反省して謝る人を冷たく突き放すホワイトも、悪いと思うな。」
冴「!……」
その言葉に冴は心が揺さぶられたような表情になる、が何も言わなかった。
黄「それにさ、ブルーがホワイトの事を大好きだってのは、確かなんだし。」
冴「そ、、そうなの、かなっ…?」
[海が自分を大好き]
イエローの思わぬ台詞、冴にとっては胸が締め付けられるほどキュンとする台詞、、
今回で、海がエロ物で欲求解消していた事を知りショックを受け、いまいち海の事を信じられなくなった冴が、思わず聞き返してしまう。
テ「そうよ、健全な男なら興味を持つのが当たり前よ。けどその事とホワイトへの気持ちは、全く別の事なのよ。それにホワイトだって、今でもブルーの事が大好きで堪らないんでしょ? ブルーも反省して謝ってるんだし、もう許してやりなよ。」
座る冴の隣に座るテトムは、冴の肩を優しく抱きながら諭す。
冴「けど、、けど…っ」
それでもやはり冴は、エロ物の事が相当ショックだったか戸惑い、海と和解しようと決心できない。
冴の純情・純粋さを改めて思い知った仲間たち。
とりあえずこの場は、退散する仲間たちだった。

それから2日後、冴は拗ねて拒絶し続けたが、海や仲間の説得もあり、元通り和解した。
冴も海が嫌いになったわけではないから、時間の問題だったが。
まあ皆に説得される際、どこか納得していたようだったから、今回の件で、多少は柔軟になったはずだが。
冴がただの分からず屋じゃなく、素直に言うことを聞く一面も持っていて良かった。
実は冴は、最初の仲間たちの説得の時点で、海に対する不信・誤解はある程度解けていた。
だが、どこか釈然としない気持ちは残り、また二度とあんないかがわしい物を持たないように反省させたく、簡単に許してやる気は無かったらしい。
結果、たかがエロ物を見つかるだけで、3日もの騒動になってしまったのだ。
海は今回の件でドッと疲れた。
(エロ物くらいで、、ああ疲れた。…本当にウブだよなぁ。)と海はしみじみ思った。
冴の純情・純粋さを改めて思い知った海。
また純情・純粋さは、裏を返せば頑固という凶器にもなると思い知った。
皆はというと、「お馬鹿なガキンチョカップルのお守りすんのは大変だぜ…」と嫌味ったらしく捨て吐いた。
けど結局最後まで面倒を見てくれた。
冴と海は、申し訳ないという思いと共に、仲間の暖かさを再実感した。
どっちにしろ、二人の強い絆とも言える一途な想いは、こんな事では壊れない。
冴の海への大きな想いは、全く変わる事はなかった。
やっぱり海の事が大好きで仕方ないのだ。
今回の件で冴に疲れさせられた海も、やはりそんな冴が愛しかった。
一途な若いふたりは再び両想いを確認した。


≪終≫